2014年11月19日水曜日

拡張性心不全の考え方~ジュニア・レジデントの先生方へ~(1)

最近、執筆活動が多忙で、ブログを気づけば、一か月半も休んでいました。今朝、12月発行の新書の脱稿を終えたので、新しいシリーズを開始します。

心臓はポンプです。全身が必要な酸素をエネルギー効率よく赤血球にくっつけて血液として送り出しています。たとえば、健常人では左室に血液が10はいって、10出せるとしましょう。大きな心筋梗塞を起こした後など左室がうまく血液を送り出せない左室収縮能が落ちた心不全(収縮性心不全)の場合、血液が10はいっても2しか左室から出せないということが起こります。では、10血液が左室に入れば10出せるのに、2しか入らないから2しか出せない心臓があったとしましょう。左室の血液を送り出す(emptying)というポンプ機能は保たれているけれど、左室が血液を取り込むこと(filling)ができないので、血液を送り出すことができない病態が考えられます。左室の血液を送り出す能力を左室収縮能、左室の血液を取り込む能力を左室拡張能と言います。左室収縮能が悪ければ、血液を出せない、すなわち一回拍出量(stroke volume)をだせませんが、左室収縮能がよくても、左室拡張能が悪ければSVを出すことができない、同じような病態が起こりうるわけです。これが、典型的な拡張性心不全となります。

ただし、厳密には左室収縮能と拡張能とは密接にリンクしており、ピュアにどちらかだけ障害されているというのは少ないです。拡張性心不全で見た目の収縮能はよくても、長軸の動きが悪い心臓はたくさんあります。収縮性心不全は必ず左室拡張能は低下しており、拡張性心不全も大半は左室収縮能が低下しています。実際は、どちらの機能異常が前面に立っているかで分けているということも、覚えておく必要があるでしょう。